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日本三毘沙門のひとつとして知られる足利市大岩の毘沙門さま。
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元旦の早朝“日の出の大護摩”に次いで行なわれるのが「滝流しの儀式」。
毘沙門天の前に正座した信者が、直径30センチほどの木製の大杯を両手に捧げ、口にあてがう。すると住職がなみなみと酒をたたえた酒器を持ち、まず鼻の頭あたりから注ぎはじめる。杯にしたたり落ちる酒をそのままにぐいぐい飲む信者。酒器の位置はひたい、頭の上と次第に高くなり、その間絶えず酒は流れたまま。頭のてっぺんから、ひたい、鼻の両脇を通って、杯に落ちる酒は、まるで滝が流れている如きであるところから『滝流し』の呼称が生まれたという。
その間ずっと酒を飲み続けている信者。まさに当節はやリの一気飲みの心境。
しかしこの一気飲み、飲んでも飲んでもカラになることがない。そこでギブ・アップというところで左手を上げる。それがストップサイン。最近では一人二合程度でほとんどがギブアップ。昔はニ升を軽く飲みほしたという豪傑もいたという。
この行事に先がけて大晦日の夜から行われるのが「悪口(あくたい)祭」。
除夜の鐘を今かと侍ちかまえる参詣客で賑わう毘沙門堂。
そのお堂の内外から聞こえてくるのは悪ロ、悪態、どなり声。
「バカヤロー」
「ナニッ、この大バカヤロー」
「この野郎」
「コン畜生」…。
どんな悪口もおとがめなし。
ただし[どろぼう」「べらぼう」「びんぼう」といった、“ぼう”のつく言葉ほ禁句になっているので要注意。
グーの音も出ないほどの悪口を半月も前から考えていたといわれる昔にくらべ、最近ではそれほどエスカレートした悪口は少なくなった。お詣りの人の列が何キロも続いた時代には、参道に出店が立ち並び、行き交う人が相手かまわず悪口をあびせ合っていたが、最近では行儀よく毘沙門堂近くでのみ行われている。
一年、積もりに積もったうっぷんを晴らし、せいせいした気分で正月を迎えるために始まった奇祭。一説には、何を言われてもじっと我慢のできる商人を育てるための祭り、ともいわれている。この奇祭は江戸時代末期から続いているとのことだ。
ともかく、大晦日の夜に最勝寺に出かけてみよう。「悪口祭」で思い切リ世をののしり、人をののしり、ストレスを十二分に解消し、めでたく正用を迎えたあかつきには、「滝流しの式」でおいしい酒が飲み放題。滝のように尽きることのないご利益を願うのもまたよし。大晦日から元旦をフルコースで楽しめる。
『悪口大声コンテスト』 『ばかやろうちょうちん行列』⇒
■問合せ=大岩山多聞院最勝寺
栃木県足利市大岩町。電話0284・21・8885。
東武線足利市駅よリタクシーで10分。
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