「歌う!ペンション『ビーチサイドやまびこ』」

 ー「本多一座」?を組んで自身も出演の本多一夫氏-

 「劇」小劇場20周年リニューアルオープン記念、と銘打たれた今回の公演。 下北沢に馴染んでいるこの劇場が改修工事のため3ヶ月間の一時休館を経て、再度、柿落としを迎えたのが、本作『歌う!ペンション「ビーチサイドやまびこ」』だ。

 70歳を迎えてから役者として舞台に再登板した本多一夫氏のプロデュース、ご自身も出演した。 脚本・演出を務めるのは、本多氏が出演した過去作品『座敷じいじ』(2015年 下北沢演劇祭)、『うたごえ喫茶、やってます!』(2016年 本多プロデュース)でもタッグを組んだ龍尺千秋氏。 まわりの役者も、下北沢演劇祭等で本多さんを囲む顔ぶれ。「本多一座」といった感じだ。
 タイトルに「歌う!」と入れ込まれただけあって、上演時間の90分間、出演者は多くの曲を披露した。 昭和歌謡からポップスまで、数えられる限りで全9曲。 「うたごえ喫茶?」でもギターを奏でた小沢あき氏が、今回も生演奏でサポート。 今回も一言も発さない寡黙な役が、客席に愛される。

 「ビーチサイド」だけれど「やまびこ」。 砂浜のない山の中、ハワイをモチーフにしたペンションに数組の客が今日も泊まっている。 熟年不倫を疑う夫婦、違和感を覚える家族、何かとそりのあわないオーナー夫婦、そして、かつてユニットで歌い手を目指していたギターとボーカルの女子2人。 常連の地主(本多氏)と寡黙なスタッフ?(小沢氏)も加わって、途中はさながら歌謡ショーのように盛り上がりつつ、それぞれの疑心やすれ違いが、絡み合ったり解けたりする。

 日常を描くなかから歌いだす演劇を創る、「おっ、ぺれった」という音楽劇集団に属するだけあって、龍尺氏の作り出した「ビーチサイドやまびこ」の世界は無理がなく、そして完成度の高いミュージカルにも思えた。歌うのは歌謡だし、振付も決してショーアップされたジャズではないけれど、歌いだすまでの流れが違和感なく、歌唱中の振付構成も存分に楽しめる。 80才超えの本多さんも俊敏さで、20代キャストに遜色がない。

 本多氏は公演を重ねるにつれ(同じだけ年を重ねているはずなのに!)、セリフの入りはいいし、しゃべりも自然。 これは周囲のキャストも同じで、演劇祭で初めて観た時の印象から、ずいぶん良くなってきた。 長年の付き合いで、それぞれの個性の活かし方をスタッフ陣がよく理解してきている、と言えるのかもしれない。

 脚本家はあたたかな家族の絆を描くのが得意のようで、前説から劇中まで、堂々と客席を巻き込むアットホームな、しかしストーリーは芯があって、客席も多くが涙している様子だった。

 「劇」小劇場は木造の劇場だったが、一階部分の柱を鉄骨に変え、「今後30年、40年を見据えた」つくりに一新したという。 手洗いが広々と綺麗になっていたのが感動。

 下北沢を演劇のまちに仕立てた本多氏は「30~40年はともかく、あと3~4年はがんばっていくつもりです」とカーテンコールで客席を沸かせた。
 ここ数年、劇中、精一杯体を動かしながらも楽しそうな表情だった本多氏が愛おしく思えた。
                                          (たぶち)
 
 









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