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「地上最大の手塚治虫」展
内覧会を観覧レポート
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手塚治虫の作品。リボンの騎士、ブラック・ジャック、ジャングル大帝、火の鳥、鉄腕アトム……。
コミック連載当時に幼少期を過ごした人、親の本棚に手を伸ばして読んだ人など、皆それぞれに「自分が読んだ手塚作品」というのがその中にあると思う。現在でも過去の作品としてすたれることなく読まれ続ける現役の、生きた作品。
そんなふうに愛され続ける手塚治虫の作品、また彼自身に迫る展覧会が開催される。
「地上最大の手塚治虫」展――そう銘打った世田谷文学館での展示は、予想よりもはるかに多くの作品を取り扱っていた。作品それぞれにまつわる手塚治虫の思いやエピソードを紹介し、彼のルーツをたどり、作品により深く迫っていくパネル展示、キャラクターオブジェのほか、実際の彼の持ち物も展示されフロア内は充実。なによりも直筆の作品原画が数多く展示されていたことに驚いた。マンガ本ではわからない微妙なタッチや修正の痕跡、なんとなく伝わってくる彼の書き癖や気質も感じ取れる。そこまで大きくないスペースを時間をかけてまわりながら、とんでもないお宝が一堂に会しているぞ、という思いが私の身から湧きあがってきていた。
フロア内を順に巡っていくと彼の人生・作品をおっていけるようになっており、パネルガイドには手塚治虫自身の言葉、作品に込められている彼のメッセージなどが紹介されている。作品には親しんできたものの、作者である手塚治虫自身については、新たな発見がいくつもあった。「アトム大使」の脇役であるアトムを主人公にして「鉄腕アトム」が生まれたこと、そもそも昆虫採集が好きでそれにまつわるエピソードから治虫という名前を名乗り始めたことなどである。他にも医学を修めていたと知り「ああ、だからブラック・ジャックが」とか、宝塚歌劇を身近に親しんで育ったことから「リボンの騎士」などが生まれたのだななどとあれこれ考えてまわることがとても楽しかった。
そうしてわかってきたのは彼の人生と作品たちとは切っても切り離せない関係にあるのだということで、彼の幼少期の環境や過ごしてきた人生について知れば知るほど、彼の作品の根源は全てそこ、「自分自身の中」にあるのだなと感じた。おそらく手塚治虫自身について詳しい人が訪れても、初めて手塚治虫自身に触れる人が訪れても、皆それぞれに楽しみを見出すことのできる展示になっているだろう。
フロアの奥には実際に彼の作品を読めるようなブースも設けられており、子どもが楽しめるのはもちろん、おとなも「懐かしいなあ」などとつぶやきながら手塚作品と再会できるような楽しい工夫がなされていた。そこでは「私の好きな手塚作品」というテーマで来館者が各自おススメの作品を紹介できる企画もされており、コメントシートに記入して自分の思い入れのある作品を紹介したり、他の人の書いたものを眺めるなどして自分とは違う観点を発見したりと、間接的なコミュニケーションがとれることも興味深かった。皆それぞれに手塚作品にまつわるエピソードをもっているのだなと、この企画からも、当日行われた開催記念式典の挨拶からも感じることができた。
海外に日本のマンガブームが広まる中、国が変わっても評価される「マンガの神様」手塚治虫の作品たち。手塚作品は本当に幅広い世代の人々に、時代が移ってもなお愛され続けているなと改めて感じた。こうした例は他に類をみないだろう。
「地上最大の手塚治虫」展は7月1日まで開催。昔よく読んだ作品を再び懐かしみに、あるいは子どもたちを連れて胸を躍らせに、立ち寄ってみてはいかがだろうか。
(田淵せな) |
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