 スポットライトに照らされながら拍手を浴びる役者たち。その眼はキラキラと光り、皆一様にまぶしく身体全体で輝いていた。年齢は重ねたかもしれないが、その心は人一倍元気で逞しい。内側から奮い立つ若い心のエネルギーが、彼らを今なお舞台へと駆り立てるのだろう。
【写真上から】瓜生正美､岩渕達治､中村たかお､本多一夫､肝付兼太､藤田あさや､二瓶こういち､妹尾河童､流山児祥､赤座美代子の諸氏
平均年齢80歳、高齢役者が右に左に、走り歌い踊りまわる劇団｢パラダイス一座｣。役者たちは自らを不良老演劇人と呼びながら、老いを逆手に放つや放つ。2006年、当時90歳の最長老の演出家：戌井市郎さんを中心に三年間の期間限定ということで始まった「世界に類のない高齢者劇団」。発足から解散までの三年間の間に『オールド・バンチ～男たちの挽歌～』『続オールド・バンチ～復讐のヒットパレード！～』『続々オールド・バンチ～カルメン戦場に帰る～』と三作品を舞台にあげてきた。最後の三作目を終えたのち、パラダイス一座は解散。再演はない、と言われていたのだが、座長戌井さんの「もう一度。もう一度だけやりたい。」の一声で特別公演が決定。2011年のクリスマス、スズナリで一発打ち上げるぞと動き出した。が、おりしも脚本を担当していた山元清多さん、そして座長の戌井さんとが相次いで逝去。残されたメンバーはこの特別公演の中止も考えたらしい。しかしせっかく座長の願いで集まった懐かしきメンバー。メモリアル公演と称し、最後まで走り切ろうとあいなった。
そんな今回の公演。亡くなった座長も舞台にあげて、役者たちは個性溢れる老銀行強盗員を生き生きと演じ切った。物覚えは仕方ない、プロンプター（役者がセリフなどを忘れた際に教えるひと）もついて、みんなでフォローしあう。途中各々が一つずつ得意の歌や噺を披露する場面があったり、多くの曲を歌いあげながらのダンスもこなして軽快にステップをふむ。そこでは一人一人が主役になって、まるでそれぞれの素晴らしい発表会のようだった。なんともまあ元気で気持ちのいいお年よりたちだこと。不良老演劇人とはよくいったもので、みてるこちらがパワーをもらう。彼らが放つエネルギーは凄まじいもので､圧倒されるばかりであった。
パラダイス一座の面々は長年芝居に携わってきたつわものばかり。今回ゲスト参加の赤座美代子さんも、美しくありながら根性の座った女ヤクザを華麗に演じる。演出の流山児祥さんも役者の一人として出ていたが、彼が場を回すとひきしまるひきしまる。一座の役者に混じる若い人々も圧巻の演技で、まさに一団となってテンポのよい芝居をつくりだしていた。
連日客の入りがすごいそうだが、年を重ねてなお老いない役者たちの姿もさることながら、劇中に使用される曲を「お客様もご一緒に」という声がかかって会場のみんなで合唱したのも面白い。今回は「リンゴの唄」と恒例だという「青い山脈」という選曲。
初演を観客席でみてあまりのエネルギーに圧倒され、自身も芝居の道を選んだという方もいた。一度でもこの一座の芝居を目の前にしたら、容易に頷けることだ。
パラダイス一座の公演は今後再び舞台にかけられることはないのかもしれない。が、彼らを見守ってきたファン、一度でも観客席に座ったことのある人なら、輝きに満ち溢れたあの「不良老演劇人」のみなぎるエネルギーを忘れることはないだろう。彼らの生命力溢れる力強い生き様に、そして尽きることのない芝居への情熱に、日本の高齢者といわれる人たちもまだまだパワフルだな、日本の演劇に対する動力も力強く残っているんだなと感じた。
私が衝撃を受けたのは､「下北＝演劇の街」の大きなシンボルでもある本多劇場のオーナー、本多一夫さんが役者として出演していることだ。さすが下北沢演劇界の頭というか、出てきた瞬間から圧倒的な存在感。まだまだ若輩の私は、最前列で観ていると自分が小さくなっていくように感じるほどであった。出ていた役者陣は皆一様に輝いていたし､パワーもすごかったが、本多さんの眼光の鋭さは人一倍。安定した芝居､間合いで、一度としてとちることもかむこともなく、ワルでセクシーなダンディーヤクザが見事にハマっていた。
（たぶせ） |
|
