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この街には車というものがいない。車のいない街というものが如何に人の心を安らかせ、のびやかに開かせてくれるか。この街を歩けばすぐに感じられる。 そういえばこの街は古くから「セレニッシマ」と愛称されていた。「静けさ」であり「平穏」の都という意味である。おそらくヴィネツィアを満たす水がすべてをその深みに溶かしてしまうからだろう。 ここには、あの艶やかな色彩、ティツィアーノ、ティントレット、ヴェロネーゼといった画家たちが生み出した宝石のごとき色彩世界があるのに、その輝きが名伏しがたい深さを備えているのは「真珠のごとき」と喩えられることもあるこの都と水との深いちぎりを思わせる。 この都はまた、数百年の歴史を築きあげた美しきものたちを、手放すことなく、水に護られたこの小さな宝石箱にとどめおいてくれた。 私たちは、ここに展示されている数百年前のヴェドウータ(景観画)のなかに、今も見ることのできる大運河、サン・マルコ広場、カーニヴァルの人々を観る。すべての美しきもの、善きものが、あそこにも、ここにも、懐かしくよみがえる。栄光のヴィネツィア絵画71作品の展観である。 −−−Bunkamuraザ・ミュージアム プロデューサー木島俊介
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