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新装の由縁堂書店内の一部(写真上、2007年7月21日)と相川章太郎さん |
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今は昔、太平洋戦争戦火たけなわのころ、芝居が大好きで夢中になっていた青年・相川章太郎さんがいた。
時代の背景からすれば少々はずれた存在であった。
空襲が激しくなり疎開する人も多くなってくると、着物のようには売れない・場所をとる・重い「本」は“邪魔もの”扱い。
芝居の本や珍しい本を買い集めていた章太郎さんには「要らないので持っていってくれないか」との声がかかる。
章太郎さんはそんな声を大切にした。
昭和20年8月16日に終戦。電気通信技術をもっていた章太郎さんは徴兵先延ばし制度の適用で同年12月に兵役に就く予定だった。しかしその4カ月前の終戦で就かずに済む。
終戦後の焼け跡。物品が少なく、戦地から次々に人々が帰ってくる。若い人の勤め口もない。
そんな中、章太郎さんは集めた本をもとに商いを始めようと考えた。
街には「りんごの歌」が流れ出し、人々は映画に野球に楽しみを求めて浮きだつ。新本の発売時には人々が並び、禁止されていた「思想」関係の本も刊行されはじめる。知的なものを求める風潮が出てきた。
昭和21年、そうした時代の流れを読んだ章太郎さんは、井の頭線の池之上駅隣酒屋さんのお店の一部を借りて「古本屋」を開いた。店名は「由縁堂」。「助六由縁江戸桜」の「ゆかり」と「お客様と御縁がありますように」との「ゆかり」を掛けた発想。章太郎さんの心意気でもある。
疎開帰りの人の、「本を置く場所がないので蔵書を買ってほしい」「戦争前の本なのでいらない」「父の本を処分したい」等々、種々知らせを受け、リヤカーを引いて経堂や成城学園あたりまで引き取りに行くこともあった。
昭和24年、店舗が手狭になり池之上駅から100mほど離れた現在の場所に店を移転。
近くの故佐藤栄作さん(元首相)宅より出された本の中に「佐藤栄作君へ、吉田茂」とサイン入りの本がみつかったりしたこともあり、
忙しくも楽しい。
店内に入ると書棚にいろいろなジャンルの本がところ狭しと並べられ、積み重ねられている。
何処に何があるかさっぱりわからない。「少し整頓をしたらどうか」と思わされる。
しかし、これは章太郎さんの長年の古本人生から生み出された“優れもの”だった。
欲しかった本を、本と本の間から見つけ出した人は、石ころの中から「玉石」を見つけ出した気分になる。「もっとどこかにかくれているのではないか?」と書棚を眺め直す。積み上げてある本の中から「ここにこんな本が…」。カウンターに本を持っていくと棚の隅にはまたまた「エーッ!これここにあったの!」。
楽しませてくれるのである。
「散歩の途中にお立ち寄りになり、ぐるっと店内をまわってお帰りになる方もいらっしゃいます」と常連客の散歩コースにもなっている「由縁堂書店」だ。
【伝言板】 「銀座プランタン前で毎月一週間、五反田古書会館で年5回オープンショップに出店しています。この8月には新橋駅前の古本祭りにも参加します。どうぞおいで下さい」
■古書「由縁堂書店」=池ノ上駅南口より2分、世田谷区代沢2〜36〜27
TEL.(03)3422・3591
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