「花粉の夜に眠る恋〜オールドリフレイン〜

 劇団3○○の代表的作品のひとつ「花粉の夜に眠る恋−オールドリフレインー』。宇宙堂が結成して5年目の今、この良き時代のアングラの臭いを放つ、混雑でエロティックな幻想劇名作を上演します。

 大河ドラマ「新撰組!」の西郷隆盛役など今や多方面で活躍中の宇梶剛士、子どものためのシェイクスピアカンパニーの独創的な演出が認められ99年度に湯浅芳子賞を受賞するなど多彩な才能を見せる山崎清介、旗揚げ公演「星の村」を重厚な演技で支えてくれた金井良信、そして渡辺作品に欠かせない存在杉嶋美智子ら個性的な客演陣とともに、土屋良太を筆頭とする宇宙堂劇団員が恋と芸術の嵐を巻き起こします。 ・

 薄幸の女流作家尾崎翠の傑作「第七官界彷徨」を下敷きに、文学、音楽という芸術の側面から、演劇とは何かという永遠のテーマを、渡辺が描き出します。
 詩人を夢見る物語の主人公町子、決して来ることのない本番に向けて練習を続ける楽士たち、そして激しく孤独に生きた老女、尾崎自身という三つの世界を交錯させながら、出口のない混沌とした現代に改めて生きる意味を問いかけ、演劇とは何か、表現とは何かを見るものの胸に突きつけてきます。
 詩と音楽で綴る幻想的な舞台をコミカルにダイナミックにかき回します。
 昭和初期の屋根裏部屋から現代、ルーマニアへと自由自在に行き来する狂喜乱舞の劇的空間を是非、お楽しみ下さい。
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 【あらすじ】
 屋根裏部屋で、一人の老女が死に誘われている。彼女は「恋」を待ちながら、人々に忘れ去られた作家である。骸骨化した彼女の物語たちが、静かに老女を眠りへと誘っているのである。老女が眠りについた途端、トランクを抱えた男と家出した大阪少年がこの部屋にやってくる。男はそのトランクに「恋」を閉じこめていた。若き日の、叶わなかった不思議な女への恋心。あの女はいったい誰だったのか。
 そして老女の物語が息を吹き返す。屋根裏部屋の塵は花粉と化す。
 時は大正。苔の花粉の降る夜、それが人体におよぼす影響の研究に、失恋の痛みから没碩する二助、前景の男であり、物言わぬ患者に心奪われてしまった医者の一助、二人の妹であり、この物語の「私」小野町子は、従兄三五郎に心寄せていた。しかし、三五郎は隣家の少女林子に恋をしてしまう。将来詩人になりたいと考える町子は、決して手に入れられぬ永遠を描こうと夢想している。そして、失恋の体験こそ詩を書く上で貴重な体験とは思うのだが、感情はそんなに簡単には切り替わらない。苔の研究に使う肥料として、ニ助が排泄物を鍋で煮るにおいとともに、一助とニ助は町子の夢の中へと巻き込まれていく。
 町子の悪夢は、自分を人魚姫になぞらえて三五郎への失恋を物語っていた。報われぬ恋の果てに海のあぶくと消えた「人魚姫」。そして町子は目覚めるが、町子が目覚めても、町子の夢の中の一助であるはずの一助は消えない。そこへ、関西弁の少年が戻ってくる。彼がトランクを開けると、その中にいたのは町子の顔をした少女であった。彼女をめぐり、病院の同僚柳浩六と口論になる一助、「恋」と少年に名乗った少女は、鏡をすり抜けてルーマニアへと去っていた。追いかける柳と一助。
 少年福助が取り残されたところへ、町子、三五郎がやってくる。福助が拾ったノートには、町子が書こうとしてまだ書けていない物語が書かれていた。その文字が風にのって鏡に吸い込まれていくのを追って、福助と町子もまたルーマニアへ向かう。
 舞台はルーマニアとなる。「恋」をめぐり、乱闘騒ぎとなる。なぜ自分が自分の「恋」に試されるのか、わからない一助。そして、再び町子が目覚めると、ルーマニアは消える。つまり、町子が物語を書くのをやめ、登場人物たちはノートのページに帰っていったのである。しかし福助は消えない。
 福助は、男でも女でもなく、男でもあり女でもある、一助が夜とまぐわって造り出した不死の子供だった。そして町子が人魚の装いで一助の「恋」を演じたのは、誰のものにもならない自己完結の町子自身の行く未を、自分で確かめるためだった。物語は幕を閉じる。全てが消えていく。
 べつの時間に、同じ屋根裏部屋でクライスラーの名曲を練習する楽士達がいた。彼らもまた、永遠に迎えることのない明日の本番を控え、寝ずの練習を続けている。なぜなら彼らは、その状態でこの世から切り離された彷徨う魂たちだからだ。楽士たちがうたう音楽家としての葛藤。それは町子の文学者としての苦悩、芸術家たちの叫びとなって共鳴し、演劇とは何なのかそして表現とは何なのかを我々の胸につきつける。楽士達の空間、老女の空間、そして物語の空間。時と空間が入り乱れる屋根裏部屋で花粉が吹き荒れる。すべては花粉のいたずらだったのか。そして戯曲は終わりを告げる。



 【宇宙堂とは
 80年代の小劇場運動を先導し、演劇界に多大な痕跡を残した劇団3○○を解散後、2001年に渡辺が新たに旗揚げした演劇集団です。
 当初はユニットとしてのスタートでしたが、2003年より劇団宇宙堂として新たに生まれ変わりました。虚構と現実、空間と時間を縦横無尽に行き来する、渡辺の幻想的な作風は、字宙堂という新たな集団のパワーによってますます力強いものとなってきています。
 2001年5月、旗揚げ公演『星の村』は、もたいまさこ、大沢健、山崎清介、観世葉子らが出演し、一人の女性の再生を描きながら、まさに宇宙全体がテーマになったスケールの大きな作品でした。待望の渡辺の新作ということもあり、連日当日券を求める長蛇の列を呼びました。続く第2回公演『詩のしの詩(しのしのうた)』は、寺島しのぶ、片桐はいり、篠井英介、深沢敦を迎え、姉妹の憎愛を軸に日本の農業問題に切り込み、日本人の生き方を問うた意欲作でした。初の地方公演も試み、より多くの観客を魅了しました。更に第3回公演『りぼん』では、全曲オリジナルの生演奏での音楽劇に挑戦し、木野花、田根楽子、観世葉子、北村岳子、高谷あゆみら異色の客演陣と共に、土屋良大をはじめとした劇団員が肉体の限界に挑戦し、横浜と青山で、好評を博しました。そして、前回第4回公演『アオイバラ』は、初めて劇団員がメインキャストを演じた公演でしたが、戦後の日本の戦争責任を問うたシリアスな内容だったにもかかわらず、「彼ら(若手劇団員)のストレートな情熱に応えるように、渡辺の命を見つめる視点はぶれることなく、濃度の濃いい作品に仕上げた。」(読売新聞劇評より)と高い評価をいただき、追加公演も行うほどの大盛況のうちに幕を閉じました。














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