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劇団鳥獣戯画『カリフォルニア・ドリーミン』
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昨年度劇評
「新日本文学」
黒羽英二氏
話は単純で、どうやら正規の免許証も持っていないらしいが、戦後、米軍キャンプに出入りして、いわゆる進駐軍の英語を耳から仕人れただけの、しかし情熱的で魅力的な英語教師「たぬき」が亡くなって、教え子(と言ってもすでに五十五歳になっている)たちが、遣言に従って、マイクロバスを仕立てて、真ん中に中学時代の担任教師「たぬき」の骨壷を置いて、伊豆の海へ散骨に行く道中を描いたものである。
総勢二十人弱の芸達者な鳥獣戯画の役者群が、倒産、病気、恋愛等、五十五年の人生を、それぞれ抱え込みながらも、ポップスクラブを作って、一緒に歌った「たぬき」を偲んで、アンサンブルよく、お馴染みの曲を、歌って踊る楽しさは抜群で、「ボクノ青春ボクノポップス」とキャッチフレイズにあるような、「月影のナポリ」「カリフォルニア・ドリーミン」「テイーチャーズベット」「かわいいべイビー」等、誰でも一度は口にしたことがある名曲が流れ、青春前期の苦しさ、楽しさ、と時空を超え、撹伴した魅力が、舞台から溢れ出して、完全に客を魅了してやまず、あっという間のニ時間が過ぎ去った。
そして何故か、「人全は楽しく、かなしい」という気分に浸って劇場を後にすることになるのも、いつもながらの鳥獣戯画芝居と言える。リズム、アンサンブル、音楽、踊り、知念正文の溢れ出る才気にまとめられて、圧倒的に押し出されてくる舞台の魅力に惹かれながら、客は自分の恩師や同級生等に思いが飛んで、……という風に気持ちが動いてしまうのだから、この同級生芝居は成功であり、知念正文の代表的傑作として大きな地位を占めるにちがいない。
「……だから日本は戦争に負けたんだ!」という言葉が飛び交う敗戦直後に生まれたが故に、アメリカンポップスの中にしかオノレの青春の無かったいわゆる団塊の世代の悲喜こもごもが滲みみ出ていて、楽しくもかなしかった。自動車による、いわば道ゆき芝居としては、ソーントン・ワイルダーの「楽しい旅路」(ハッピィジャーニー)があって、一家四人の自動車旅行に、人生の縮図を見せてくれたが、今回は舞台に回転盤を仕立てて、それを廻すことでマイクロバスのよる移動を見せてくれていて楽しかった。
公演概要⇒
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